• マンション・バリューアップ・
    アワード2022
部門賞
  1. 防災・防犯部門
  • 大地震後のトイレの課題と
  • 負担軽減に向けた取り組み
太田 吉則 様
  • サントーア哲学堂公園管理組合 防災委員長
  • 当マンションは、東京都新宿区にある築28年目、9階建て46戸のマンションです。
  • 東日本大震災以降、首都直下大地震を想定した防災の取り組みを進め、2014年からは防災訓練を毎年実施、その他に防災マニュアルの作成、規約の変更、防災備品の購入等を行ってきました。狭い敷地の問題から防災倉庫が設置できない当マンションにおいては、防災備品も多くは保管できず、居住者各戸の準備・備蓄に頼るところが多い状況でした。
  • 大地震の発生後は、多くの課題が想定されますが、中でも、汚水管の破損による被害や凝固剤による排泄物のゴミを大量に発生させるだろうトイレ問題は重大であり、課題の解決、一歩前進が望まれているところでした。
  • 管理組合はこれまで居住者に対して、大地震の発生後は、トイレ排水管の破損の可能性があることから、災害用トイレ(凝固剤)を事前に準備し、発災後は各戸のトイレは使用せず、再開決定までは凝固剤を使用するよう要請してきました。
  • しかしながら、トイレ排水の禁止期間が長いほどゴミがたくさん貯まっていくにもかかわらず、一旦禁止したトイレ排水を、どのようにして再開するかについては、判断できるよい手段がなく、断水が解消したあとも、トイレが流せるかどうかはわからない、という状況でした。
  • 大地震の発生後、以下のことがトイレ関連の課題になると想定されます。
  • トイレ汚水管の破損の有無を確認するよい方法がないため、一旦禁止したトイレ排水を再開する判断ができないこと。
  • 汚水管の破損がないと確認できた場合であっても、停電・断水中はトイレを流す水が確保できず、トイレゴミは増えて続けていくこと。
  • 管理組合で確保している災害用トイレ(凝固剤)は少量であり、各戸で備蓄している災害用トイレ(凝固剤)の数量は各戸の判断であることから、その数には限りがあると想定されること。
  • トイレゴミの各戸での保管は、トイレ使用不可の期間が長期になればなるほど大きな負担・ストレスになり、健康被害を引き起こしかねないトイレの我慢にも繋がる、と想定されること。
目的
  • 今回の取り組みの目的は、このような課題に対し、
  • マンション管理組合が自力でトイレ汚水管の破損をチェックできるツールを準備すること。
  • 汚水管に大きな破損はないと判断できた場合を想定し、停電と断水によってトイレを流す水が確保できない間、受水槽内の水の一時利用を可能にすることで、水量は限定的であっても、トイレを流す水を確保する手段を得ること。
  • 上記のことを実現し、発災後、在宅避難中の居住者のトイレゴミやストレスの負担軽減(減災)につなげること。
  • を目的としました。
  • トイレ汚水管の破損の有無をチェックできる簡易検査具を調達、停電・断水時のトイレ排水用として受水槽からの非常用給水装置を購入。
  • 2020年に、ネットで見つけたJDLエンジニアリング株式会社が販売するトイレ汚水管の簡易検査具「下水チェッカー・通る君」と、受水槽内の水をポンプで給水する「防災オアシス計画DEPO・昇助君」について、理事会で検討・評価しました。
  • チェッカーは、上階のトイレから水と固形物が問題なく汚水桝まで流れ着くかどうかをモニタリングすることで、汚水管に大きな破損の有無を管理組合が自力で判断できる、と評価しました。
  • また、非常用給水装置については、受水槽のボールタップの位置から受水槽内の水はおよそ14,000Lであると確認し、断水中であっても、受水槽内の水を、14,000L÷46戸≒300L/戸≒トイレ排水30回以上が確保でき、トイレゴミ削減に大きく貢献すると評価しました。理事会では、総会議案とすることを決定、2021年の総会で決議、以後発注・購入しました。
  • 2022年7月末には、居住者9名にて、上記2商品の使用テストを実施しました。
  • チェッカーのテスト実施にあたっては、使用目的、汚水管(垂直および水平管)の地上汚水桝までの経路等を理解し、よく学習・検討してから作業に臨みました。事前に居住者にテストの主旨を説明した上で、トイレからチェッカーを流してもらい、地上の汚水桝でモニタリング、到着までの時間を計測しました。
  • 非常用給水装置の設置および給水テストにあたっては、部材・構造、設置場所等を事前に学習し、保管場所から部材を搬出、設置までていねいに行い、実際に受水槽から手動ポンプで9階まで給水してみました。
  • テスト実施後、チェッカーと給水装置、それぞれ2つの実施マニュアルを作成。
  • テスト作業前の準備から作業後までの、作業参加者の意見・感想や現場の画像を集めて、チェッカーと給水設備の実施マニュアルを防災委員と協力者で作成しました。
  • 作成にあたっては、わかりやすいものになるよう工夫しました。わかりやすさは、作業経験者がいなくても、「マニュアルを見れば、なんとなく間違えずに実行できるレベル」を目指しました。
  • チェッカーと給水装置を使用する場面では、大地震の発生、停電、断水、トイレ排水の一旦禁止、管理組合備蓄の防災トイレの配付、各戸備蓄の防災トイレの使用、チェッカー使用のための水の確保、水道局からの排水制限の確認等、それぞれの関係性を理解し、状況に合わせて対応しなければなりません。これらを整理し、文書とチャート図にまとめました。
  • 作業に必要なキーボックスの場所や鍵の位置、マンホールを開ける道具の保管場所、作業に便利なトランシーバーやライトなどの防災備品等、必要なもの一つ一つ、現場一か所一か所の画像を掲載し、完成させました。
  • マニュアルは、実際に作業をする際の人員数を想定した数のコピー、記録紙などを準備しました。
  • 2022年10月に実施した年一回の防災訓練の際には、テスト作業の際の画像付き説明書を参加者と欠席の全戸に配付、実際に発災した際の理解と協力をお願いしました。
  • 耐震補強計画概要
  • 防炎訓練2022
  • 大地震発生後の
  • トイレ使用についての基本想定
  • 今回の防災備品(チェッカーと給水装置)を調達したことで、発災後、管理会社も被災する中、トイレ排水の可否を管理組合が自力で判断する手段を得ることができました。簡易チェッカーですので、完璧な判断はできませんが、致命的な破損の有無は判断できると考えています。またテスト後に、余震と本震が続いて発生した場合のための予備のチェッカーの必要性に気づき、後日追加購入しました。
  • 非常用給水装置については、断水中であっても、受水槽から各戸トイレ約30回分以上の水を確保できるようになり、排水管の破損がなければ、トイレ排水に使用できる、トイレゴミを削減できることになりました。
  • ■ 苦労した点・工夫した点
  • 7月末という真夏の天気の良い日曜日に、トイレチェッカーの時間計測、非常用給水装置の設置(最上階の9階まで)と給水テストを実施しましたが、協力者全員汗だくになりながらの大変な作業になりました。給水装置は、午前中のテストの後、乾燥させてから収納しなければならなかったため、夕方まで乾燥してから片付け、みんなヘロヘロになりました。しかし、作業の中で実務上の課題や作業のコツがわかり、現場の写真も確保でき、和気あいあいと、みなで協力しあい、とても有意義なテストになりました。
  • テストを実施したおかげで、みなさんのご意見をうかがうことができ、それらをマニュアルに反映、画像もたくさん掲載し、わかりやすくなるよう工夫して完成させることができました。
  • 居住者の声
  • 震災後のトイレの課題は認識していたが、「トイレを流せないなら、どうしたらよいのだろう」「流してしまう人がいたらどうなるんだろう」と思っていた。今回の対応で、限定的ではあっても様々な対応の準備が整ったことで安心した。
  • 震災後のトイレ問題と管理組合の対応については、取り組んでいることはわかっていが、内容についてはぼんやりとした理解だった。防災訓練の際に配付された資料には、今回の取り組み内容の説明があり、よく理解することができた。
  • 管理組合で防災対策については、毎年防災訓練の際に進捗状況を知る機会があり、今回の取り組みについても理解することができた。管理組合の取り組みは心強く、自分の防災への心構え・意識も上がるきっかけになっている。
  • 震災後のトイレ課題への取り組みについて、マニュアル化したことはよかったと思う。作業経験者がいるかどうかわからない発災時の現場では、マニュアルは必要なものだと思う。
  • 本件を実施するのに掛かった費用(掛かる費用)
  • 非常用給水ポンプ(手動型)約501千円、チェッカー約31千円。マニュアル作成は外注なし。(後日の追加発注分は別)
  • マニュアルコピー代+ファイル代=6千円、総計538千円。
  • 本件を実施することで削減することが出来た費用
    (出来る費用)
  • なし。
  • 資料1
  • 資料3
  • 最終プレゼンテーション資料
  • 別紙1
  • 別紙2