• マンション・バリューアップ・
    アワード2021
グランプリ
  1. 防災部門
  • コミュニティの再構築と
  • マンション自主防災力の強化
久保田 潤一郎 様
つつじが丘ハイム管理組合 理事長
  • 私たちが住む「つつじが丘ハイム」(以降、「ハイム」と表記)は、1972(昭和47)年に調布市郊外の高台に建設された大規模分譲マンション(4棟:A・B・C・D、5階~12階、443世帯)で、本年度49年目を迎えました。
  • ハイムでは、分譲後に管理組合が設立され、理事会を中心にマンションの維持・管理をはじめ住民が快適に過ごせるハイムを目指して活動してきました。特に1980年代から90年代にかけては、住民サークルや子供会、バザーなどのコミュニティ活動が盛んで、周辺地域で “活気のあるハイム”、 “住民同士の繋がりが強いハイム”として評判でした。
  • しかし、時の経過とともに建物の老朽化や住民の高齢化が進み、移動(退居・入居)する人が増えたこともあって住民間の交流が少なくなってきました。
  • ハード面では、毎年の補修工事に加えて、1987年と2000年に大規模修繕工事が行われました。しかし、2011年3月の東日本大震災により、共有部でエレベーターの停止や水道管の破損があり、一部の住居で電化製品の落下や食器棚の転倒がありましました。その後、2014年の大規模修繕工事では防災に備えた設備の刷新や建物の補修を行いましたが、大掛かりな耐震改修工事は実施できませんでした。
  • 防災については、各期の理事会で「大規模地震に備えた防災の取り組み」が話し合われてきました。しかし、ハイム内で防災組織をつくるまでには至らず、消防訓練の実施や居住者に対して備品・備蓄品を紹介する活動に留まっていました。
  • 2020年の理事会(48期)で、防災の取り組みの1つとして災害支援ボランティアの募集が提案されました。その過程で、「被災時の支援活動は、支援する人と受ける人の相互理解と協力がなければ機能しないのではないか?」という課題提起がありました。
  • 話し合いを重ねた結果、居住者同士の接点が少なくなっているハイムでは、災害支援の仕組みを作ることと同時に居住者の方々が支援活動を理解し、協力してもらえる関係づくり(絆づくり)が必要であると気づきました。そして、2年計画で「ハイムのコミュニティの再構築と自主防災力の強化」を目指すことにしました。
  • 居住者が共に支え合えるコミュニティを理念として、被災時に支援する人と支援を受ける人が協力して活動できる自主防災体制の構築を目的としました。
  • (1) 居住者が共に支え合える
    コミュニティづくりの推進活動
  • ①居住者情報の書き換えと整備
  • ハイム全体の居住者情報については、これまで入居時に提出された後は、居住者からの届けがあった場合にのみ更新されていたため、直近の居住者情報が把握できていませんでした。そこで、最新の居住者情報に書き換えるために全世帯に改めて居住者名簿を提出していただきました。<2020年10月>
  • ②災害時支援希望者の登録と整備
  • 居住者の高齢化を踏まえて、災害時に支援が必要な居住者を把握するために、①と同時に「災害時要支援者登録申込書」を全戸に配布し、希望者に提出していただきました。<2020年10月>
  • ③災害支援ボランティアメンバー登録
  • 大規模地震の発生時に、ハイム居住者に対して安否確認や支援活動を行う「災害支援ボランティアメンバー」を募集しました。<2021年1月~>
  • (2) 被災時に支援する人と支援を
    受ける人が協力して活動できる
    自主防災体制の構築活動
  • ①安否確認マグネットの配付
  • 大規模地震の発生時に、居住者の安否状況を表示してもらう安否確認マグネット(表面:無事です、裏面:救助求む)を全戸に配付し、配布の趣旨と使い方を周知しました。<2020年9月>
  • ②自主防災会規約制定と自主防災会の設置
  • 2020年に防災組織の検討を始め、2021年の理事会では、ハイムの防災組織の目的や活動について討議を重ね、「つつじが丘ハイム自主防災会規約」の制定と「つつじが丘ハイム自主防災会」の設置を同時に進めることとしました。<2021年4月~>
  • ③自主防災会活動マニュアルの作成
  • 被災時に立ち上げる「つつじが丘ハイム自主防災会(理事会メンバーと災害支援ボランティアメンバーで構成される組織)」が支援時に利用する活動マニュアルの作成に着手しました。<2021年4月~>
  • ④防災用品と防災備蓄品の手配
  • 理事会にて、ハイム自主防災会用として必要な防災用品と被災時に居住者に配布する飲料水や非常食を検討し、防災備蓄品として手配しました。<2021年7月~>
  • ⑤井戸水給水のための非常用発電機整備
  • 2021年度の理事会メンバーは、ハイム内の洗車場(3か所)に井戸水が給水されていることは知っていましたが、井戸ができた理由や非常用発電機の存在は知りませんでした。今回の防災用品の検討過程で、「阪神淡路地震後の1996年に、水道停止時の井戸水給水用として、井戸の掘削工事が行われ非常用発電機が購入された」という事が分かりました。 20年以上も前に、諸先輩が水道停止に備えて設けた財産がすぐ傍にあったのです。早速、非常用発電機を整備して問題なく動くことを確認しました。また、井戸水が毎年の水質検査に合格していることも確認して被災時の生活水として利用することにしました。<2021年7月~>
  • ⑥「つつじが丘ハイム防災マニュアル」の作成
  • ②の規約と③のマニュアルの完成後、大規模地震発生時に居住者が自らの命を護る行動(自助)と自主防災組織の支援活動(共助)をまとめた「つつじが丘ハイム防災マニュアル」の作成に着手しました。<2021年6月~>
  • 安否確認ステッカーの
  • 配布について
  • (1) 居住者が共に支え合える
    コミュニティづくりの
    推進活動
  • 最新の「居住者名簿」から、住居毎の家族構成や年齢構成が把握できました。その結果、予測以上に高齢化(80歳以上が約18%)が進んでいることが分かりました。また、「災害時要支援者」として登録した住居数が26%で、災害時の支援が喫緊の課題であることが分かりました。一方、大規模地震の発生時に安否確認や支援活動を行う「災害支援ボランティアメンバー」として20名の方々が登録され、居住者が共に支え合うコミュニティづくりの第一歩となりました。<2021年5月>
  • (2) 被災時に支援する人と支援を
    受ける人が協力して活動できる
    自主防災体制の構築活動
  • 調布市の「防災市民組織の規約(案)」をもとに、理事会でハイムの防災組織の目的や活動について討議を重ね、Ⓐ「つつじが丘ハイム自主防災会規約」を制定しました。そしてⒶに基づき、理事会の下部組織として「つつじが丘ハイム自主防災会」を立ち上げました。<2021年6月>
  • 【資料:Ⓐつつじが丘ハイム自主防災会規約】
  • つつじが丘ハイム自主防災会(自主防災会本部、安全確認グループ、物資グループ、情報グループの4組織)の支援活動について、被災直後から復旧時までの活動を「いつ、どこで、だれが、何を、どう(活動)するか」でまとめたⒷ「つつじが丘ハイム自主防災会活動マニュアル」を作成しました。<2021年6月>
  • 【資料:Ⓑつつじが丘ハイム自主防災会活動マニュアル】
  • 被災時のハイム自主防災会用の防災用品(20品目)と全居住者配布用の防災備蓄品(3品目)を選定し、理事会の承認を得て、ハイム内の倉庫と集会室に収納しました。また、井戸水給水用の非常用発電機については、整備後に理事会メンバーで実施訓練を行い、非常用発電機の試験稼働と井戸水汲み上げ用電源への切り替え手順を確認しました。<2021年9月>
  • 大規模地震発生時の支援活動(共助)と居住者の方々の自衛(自助)行動や協力していただきたいことを時系列にまとめたⒸ「つつじが丘ハイム防災マニュアル」を作成し、全戸に配布しました。<2021年10月>【資料:Ⓒつつじが丘ハイム防災マニュアル】
  • Ⓒ「つつじが丘ハイム防災マニュアル」の全戸配布に合わせて、災害支援ボランティアメンバーを対象とした「大規模地震発生時の支援活動説明会」を実施しました。説明会では、Ⓑ「つつじが丘ハイム自主防災会活動マニュアル」とⒸ「つつじが丘ハイム防災マニュアル」を連動させて、各メンバーの大規模地震発生時の役割と支援内容を伝えました。<2021年10月>
  • (今後できること)
  • コロナ禍の影響で、2020年以降は避難訓練や消防訓練などの防災訓練が実施できない状況でした。今後、新型コロナ感染リスクが無くなった段階で、災害支援ボランティアメンバーの支援活動と連動した防災訓練を実施する予定です。
  • ■ 苦労した点・工夫した点
  • 災害対応自販機の設置は、1年前(2020年度)の理事会でも検討した案件でした。この時は、理事会メンバーから、「空き缶・空きペットボトルの散乱」、「自販機設置の近くの人から商品補充時の騒音などのクレームが出る」、「近隣の人が利用時に敷地内に入り物騒」など、懸念する意見が出されて、設置が見送られました。そこで、2021年度は居住者の声を反映したいと考え、「お試し期間」設置を行い、利用アンケートで判断する進め方にしました。
  • 「お試し期間」設置後、ハイムエコー(コミュニティ紙・毎月発行)で全居住者に利用アンケートを呼びかけた結果、91名から回答を得ました。結果は、「設置してもよい87%」、「必要ない13%」で、前年度出た懸念事項もほとんどありませんでした。理事会では、この結果(定量情報)とアンケートに書かれた意見(定性情報)の両方を確認して、設置の結論を出すことができました。そして、ハイムエコーに自販機の利用アンケート結果と個々の意見を載せて、結論に至るまでの過程を知ってもらえるよう工夫しました。
  • 私は、昨年の支援ボランティアの募集活動に際して、“被災時の支援活動では傷害や賠償責任などを補償する傷害保険への加入が必要になる”と思いました。その思いが、「つつじが丘ハイム自主防災会活動マニュアル」の作成過程で、“災害支援ボランティアメンバーが安心して活動するためにも傷害保険は不可欠”という確信が持てたので、2021年度の理事会に提案し検討することにしました。
  • 初めに、東京都社会福祉協議会のボランティア保険(天災コース)を検討して、窓口で加入の相談をしましたが、マンションの管理組合は対象外でした。そこで、ハイムの管理会社を通じて複数の保険会社に該当する保険を調べてもらったところ、私たちが希望する天災時のボランティア保険は無いとのことでした。それでも、“必ずどこかの損保会社で受けてもらえる”とあきらめずに管理事務所を通じて交渉してもらったところ、ハイムの共有部の損害保険を契約している会社と特約で「災害ボランティア保険」に加入することができました。
  • 「つつじが丘ハイム防災マニュアル」の構成は、支援メンバーの活動と居住者自らの防災行動が比較でき、防災行動が1つでも多く実践できるよう工夫しました。
  • 具体的には、被災時の自主防災会組織の支援活動(共助)と居住者の方々に自ら自衛していただきたいこと(自助)や協力していただきたいことを左右見開きで確認できる誌面構成とし、イラストや支給品の写真を入れて、場面や実物がイメージできるようにしました。また、冊子内に「支援依頼シート」や「お困りごとシート」を入れて、被災時に必要になったとき切り取って利用できるよう工夫しました。
  • 被災時の支援活動には危険が伴います。理事会で検討を重ねた結果、「つつじが丘ハイム自主防災会の支援活動は、専門の訓練を受けていない支援メンバーが二次災害の危険性がある救出・救命活動や消火器で対応できない規模の消火活動は困難で、消防署への連絡や誘導などの後方支援活動を行う」ということになりました。
  • そして、「つつじが丘ハイム防災マニュアル」に支援可能な活動例と困難な活動例を明示することにしました。このことで、居住者は被災時の支援で可能な活動と難しい活動が予め確認できるため、自らを護る(自助)防災意識の啓発に繋がると考えています。
  • ハイムエコーには、編集委員が交替で執筆するコラム(編集後記)があります。今年は、管理組合の活動やハイム内の出来事を話し言葉で伝え、読者により親しみを感じていただける紙面を心掛けました。
  • 5月号のコラムでは、「緊急事態宣言下、いつまでこの状況が続くのかな、と我慢の日々が続いていますね。テレワークで会社や友人と会う機会も少なくなり、社会との接点が減った気がしました。こういう機会だからこそハイムの敷地内でお会いした方に挨拶してみよう!とこの1か月心がけてみたんです。挨拶を返してくださる方も多く、少し人との接点が持てた気がしてうれしくなりました。挨拶っていいですね!ほんの少しの勇気で社会や人との接点がつくれます。」の内容で、挨拶の心地よさを伝えました。
  • また、9月号では、「7月号のハイムエコーでもご案内しましたが、“つつじが丘ハイム自主防災会”は、防災活動の本格稼働に向け、着々と準備を進めています。その一つですが、情報発信ツールとして、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を活用しようということです。専用のTwitterやInstagramを開設しますので、居住者の皆様も、パソコン・スマートフォン・アプリで情報を受信できるようになります。準備が整い次第、共有させていただきます。」と進展状況を紹介し、防災活動の取り組みに関心を持ってもらえるよう工夫しました。
  • 居住者の声
  • 災害対応自販機利用アンケートの感想・意見では、通常時の利用のメリット以外に「自販機が近くにあると安心感があり、いざというとき助かります」、「災害用として、備えあれば憂いなし」、「常時利用しないが災害時の対策として設置しておくのは良いと思う」など肯定的な意見が多く、災害対策用としての関心が高いことが分かりました。
  • ハイムエコーの読者から、「かつては紙面がなんとなく広告的でお堅い感じだったものが、住民の生活重視のソフトな紙面になりましたね」などの手紙をいただきました。特にコラムに対しては、「優しく語りかけてくれるような文章でほっこりします」、「コラムを読むと、管理組合でどんな取り組みをしているのか分かり易い」などの感想をいただきました。
  • 「災害支援ボランティア活動説明会」の実施後、複数の災害支援ボランティアメンバーから「マニュアルに、『二次災害の危険性がある救出・救命活動や消火器で対応できない規模の消火活動は困難で、消防署への連絡や誘導などの後方支援活動とする』と明記されて安堵しました」、「ボランティア保険に加入できたことで、安否確認や支援を行う際に安心して活動できるので心強い」という声をいただきました。
  • 「つつじが丘ハイム防災マニュアル」の配布後に、居住者の方々から「どんな支援があるのか、どう対応すればよいか分かり易い」との声を数多くいただきました。また、理事会メンバーからは、「このマニュアルは、他のマンションの管理組合でも活用できる内容で、『利用したい』という要望や依頼があれば活用していただいてもよいと思います。」という提案もありました。改めて、本マニュアルが各マンションの防災マニュアルのプラット・ホーム(雛型)として活用いただけば、有難いと思います。
  • 本件を実施するのに掛かった費用(掛かる費用)
  • 災害対応自動販売機設置費=無料
    (電気料金=約5,000円/月)
  • 自主防災会組織用の防災用品(20品目)と
    全居住者用の防災備蓄品(3品目)
    購入費=約1,400,000円
  • 非常用発電機整備費=追加・発電用
    バッテリー代7,000円
  • 「つつじが丘ハイム防災マニュアル」
    印刷費=143,000円
    (PDF原稿提供、印刷・製本費用のみ)
  • 傷害保険料年額
    (支援者40名を想定)=16,000円
  • 本件を実施することで削減することが出来た費用
    (出来る費用)
  • 無し(防災という備えのため被害額の費用削減は予測できないため)
  • Ⓐつつじが丘ハイム
  • 自主防災会規約
  • Ⓑつつじが丘ハイム自主
  • 防災会活動マニュアル
  • Ⓑつつじが丘ハイム自主防災会
  • 活動マニュアル
  • Ⓒつつじが丘ハイム
  • 防災マニュアル
  • Ⓓ災害対応自動販売機
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