マンション・バリューアップ・
アワード2021
優秀賞
管理組合運営部門
10年先を見据えた住環境整備、
財務体質改善を目指して
菅谷 武史 様
THE TOYOSU TOWER管理組合 前理事長
村山 行英 様
THE TOYOSU TOWER管理組合 理事長
目次
背景
目的
実施内容〈バリューアップ〉
実施結果
苦労した点・工夫した点
居住者の声
背景
目的
実施内容〈バリューアップ〉
実施結果
苦労した点・工夫した点
居住者の声
本件を実施するのに掛かった費用(掛かる費用)
本件を実施するのに掛かった費用
(掛かる費用)
本件を実施することで削減することが出来た費用(出来る費用)
本件を実施することで削減することが
出来た費用(出来る費用)
東京都江東区に所在する築13年目、825戸、住居棟(地上41階/地下1階)と共用棟(地上2階)を持つタワーマンションです。子育て世帯のみならず、独身世帯・高齢世帯も居住しており、多様な価値観を尊重する理事会運営が求められます。
当組合では、経費削減努力により2012年に管理費の値下げ(298円/㎡→229円/㎡)を実施。しかし、共用施設の運営経費の増加、駐車場利用者の減少、経年劣化に伴う日常修繕の増加、社会情勢の変化(新型コロナウイルス感染拡大に伴う生活様式の変化、消費税増税等)により、大きく収支構造が変化し、2020年に管理費の大幅改定(229円/㎡→339円/㎡)を実施しました。
一方で、人件費の高騰や、火災保険料上昇(2020年度に水災想定エリアに指定)等、財政を取り巻く環境は今後も厳しさを増すものと想定されます。
また、利用者が限定される共用施設の修繕、美観面において価値観が分かれやすい共用部分の高額什器(ソファー等)の更新、居住者間の親睦を深めるコミュニティ形成活動等は、先の通り収支構造の変化により一部の区分所有者から支出について厳しい意見が出され、修繕・更新・イベントの見送りが続いておりました。
この状況が継続すると、最終的に住み心地の悪化、利用価値の低下等に繋がることが懸念されます。そのため、理事会では「10年先を見据えた住環境整備に取り組み、"豊洲で住み心地No.1"のマンションを目指す」をスローガンに掲げ、利便性の維持・向上を図りつつ、財務体質の改善を一気呵成で進めることにしました。
居住者の生活利便性を高めつつ財務体質の改善を図り、継続的な修繕・グレードアップ等を可能とする財源を確保することで、10年先を見据えた住環境整備に取り組むことを目的としました。
実施内容1:財務体質と利便性を同時に改善した
「コンビニ・キッズスクエア一体再整備計画」
①概要
共用棟1階部分には、居住者専用保育所として使用されていたキッズスクエア(164.11㎡)があり、不採算により事業者撤退後はキッズルームとして開放していましたが、殆どの時間で無人状態でした。一方で、共用棟2階部分の居住者専用コンビニ(49.04㎡)も同様に採算が取れず運営業者が撤退、施設運営費(約1,080万円/年)を補填し新たに業者を選定し、居住者の福利厚生施設として維持していました。
そこで、キッズスクエアとコンビニの入れ替えを実施。多くの居住者より要望があったコンビニの品揃えについては面積拡大で応えつつ、キッズルームは使い勝手を改善させ、双方の利便性向上を図りました。
また、移転後の1F店舗部分(コンビニ)は、居住者を対象としたマンション内からの出入口に加え、外部からの入店が可能なよう出入口・スロープを新設。また、電力供給増強等の店舗運営に必要な工事(約3,760万円)を経て貸し出すことで、収益事業(税別:約1,000万円/年)への転換を図りました。
②アンケートで居住者の多くがマンション内コンビニの価値を評価
本事業検討にあたり、コンビニのニーズを把握するためアンケートを実施しました。最終的に345世帯の回答が得られ、約91%の方が施設運営費を理解した上でコンビニの存在価値を 評価。また、本事業構想も約88%の方が理解を示されたことを受けて、本事業実施への舵を切りました。
③管理組合を支える全ての関係者との連携で実現
本構想はマンション内の設備・構造に関連する内容のみならず、行政確認・申請や近隣団体との協議も必要になるものと想定されたため、管理会社・売主・施工主と連携して本事業を推進しました。
一方で、テナント運営については先の関係者でノウハウを有していなかったため、本業でテナント運営に携わる居住者からアドバイスを仰ぎ、店舗運営事業候補者との交渉・調整を実施しました。
このように、管理組合に関わるほぼ全ての方の協力を得ることで、構想(2020年9月)から事業完遂(コンビニ開店:2021年12月)まで、約1年4ヶ月という短期間での実現目途に至りました。
旧キッズスクエア
キッズスクエア工事中
実施内容2:在宅時間増加の物品保管ニーズに応える
「駐輪場エリア有効活用」
①概要
空き区画が増加している2段式駐輪ラックは、既に補修部品生産が完了しており、近い将来に更新が必要となっていたことから、一部区画を撤去し更新コストを抑制しました。 (更新コスト概算…実施前:約7,760万円→実施後:約6,700万円 / 削減効果:▲約1,060万円)
撤去区画の部品は故障中の区画の補修部品にメンテナンスの上で再利用することで、2段式駐輪ラック区画の延命を図りました。
空きスペースは平面駐輪場(計51台)への転換に加え、トランクルーム(計32区画)の新設を行い、駐輪場エリアの有効活用と収入増(約280万円/年)を実現しました。(本事業総工費…約840万円 / 事業費に対する投資回収期間…約3年)
②「withコロナ時代」のニーズを捉えたトランクルーム
本内容の実施前には、平面駐輪場とトランクルームのニーズを把握するためのアンケートを実施。257世帯から回答があり、価格設定と区画数設定の参考としました。
トランクルームは募集区画(32区画)に対し52件の応募がありました。これは、昨今の在宅時間増加に伴い居住空間確保を目的とした物品保管ニーズが高まっていたこともあり、「withコロナ時代」の施策としても有効だったと評価しております。
平面駐輪場
トランクルーム
実施内容3:将来的なグレードアップの財源確保に
繋げるタワーパーキング1本外部貸し
①概要
当組合では平置駐車区画(191台)とタワーパーキング(3本:360台)の計551台分の駐車区画を有しております。このうち、タワーパーキングでは150台以上の空き区画が存在していたことから、1本(120台)分を対象に、サブリース契約における外部貸しを実施し、収入源(税別:約1,040万円/年)を確保しました。
②セキュリティ水準確保の取り組み
当マンションでは、タワーパーキングの出庫操作はマンション内のセキュリティエリアに設置された操作機器に限定されていましたが、サブリース利用者がセキュリティエリアに立ち入らないような工夫が必要となりました。
そこで、タワーパーキングメーカーと協議を行い、サブリース利用者はタワーパーキング前の操作盤でも出庫操作が行えるように仕様変更を実施。居住者と外部利用者の分離を図ることで、セキュリティ面での懸念に応えることにしました。
本対応は他の部品交換作業とあわせて実施することで、追加費用をかけずに実現しています。
タワーパーキング
室内操作盤
実施内容4:「withコロナ時代」の食生活を支える
キッチンカー・移動式販売の誘致
①概要
当マンションには多くの勤労世代が居住しており、生活利便性向上を目的にキッチンカー・移動式販売の誘致を実施。車寄せスペース利用に対して一定の利用料を設定することで、収入を得ることが出来ました。
なお、当マンションは「東京都まちづくり団体」の登録要件である公開空地面積を有していなかったため、当初はキッチンカー事業者より出店提案を受けられない状況でした。そのため、車寄せスペースの利用を事業者に逆提案し、正式運用時には総会にて敷地利用の承認を得ることで実現しました。
②「withコロナ時代」の食生活を支えるキッチンカー
当組合は新型コロナウイルス感染拡大前にキッチンカーの誘致を行っておりましたが、その後、1回目の緊急事態宣言が発出。一部の居住者より「中止すべきではないか」との意見も出されましたが、在宅勤務の急速な普及と周辺飲食店の一斉休業という状況より、本取り組みで恩恵を受けられる方も多いのではないかと考え、理事会では継続を決定しました。
結果としては理事会の想定通り利用者は急増。当初は週3日でスタートしましたが、現在は週5日に展開を拡大させ、「withコロナ時代」における居住者の食生活を支えています。
移動式販売1
移動式販売2
(1) 全体を通じて
遊休資産を最大限有効活用し、多くの方の利便性を高めつつ、固定費(施設運営費:約1,080万円)と更新費用の圧縮(2段式駐輪ラック更新費用:約1,060万円)、そして新たな財源の創出等に繋げることができました。
一連の施策は共用部分の変更や運用見直しを伴うものであり、取り組み前の低い総会出席率と、管理費見直し・コロナ禍といった逆風下での取り組みにより、実現は困難だと想定されましたが、合意形成に至ったことは今後の組合運営で議論可能な領域を広げられたものと考え、大きな成果だと考えております。
用途変更を伴う「コンビニ・キッズスクエア一体再整備計画」は、着想時点では多くの関係者から実現の可能性が低いものと見做されていましたが、管理会社等の業務委託先との緊密な連携により短期間で実現。日頃の良好な協力関係は、組合が取れる選択肢の幅を広げるものと考えております。
(2) 新たな財源の創出
マンションの良好な住環境を支える修繕・グレードアップ等の原資確保に繋げられました。
店舗部分の収入創出による共用施設・什器備品の更新・グレードアップ原資の確保(税別:約1,000万円/年)
トランクルーム新設・平面駐輪区画転換による収入増・駐輪場エリアの採算性向上(約280万円/年)
タワーパーキングの1本(120台)分貸しによる、駐車場区画のグレードアップ原資の確保(税別:約1,040万円/年)
キッチンカー・移動式販売の誘致と、コミュニティ形成にかかる原資の確保(税別:約50万円/年)
■ 苦労した点・工夫した点
①区分所有者の関心向上、参画促進
一連の施策は共用部分変更と支出を伴うものであり、取り組み開始時には低い総会出席率と、管理費見直し・コロナ禍といった状況下であったことから、実現は困難だと想定されました。
少しでも関心を高めるべく、ZOOM(Web)と直接参加の併用による意見交換会・事前説明会、Web・紙媒体併用のアンケートを行い、区分所有者の意見が反映できるよう取り組みました。
意見聴取は管理費見直しのタイミングが重なり厳しい内容が多く含まれていたものの、多くの方に一連の施策をご理解頂き、日頃から組合活動に関心を持ってもらうことの重要性を認識しました。(総会における議決権出席率…2019年度迄の平均:67.1% → 2021年5月定期総会:88.0%)
②管理組合を支える関係者との緊密な連携
「コンビニ・キッズスクエア一体再整備計画」は、参考となる事例(共用部分の用途変更)がなかったことから、多くの区分所有者やコンビニ運営業者からは実現性を懐疑的に見られ、発案者も実現手段が見出せない夢物語であり、関係者を口説いて参画してもらうところからスタートしました。
また、豊洲地区は再開発地域であることから、行政・消防への確認・調整・届出対応以外にも、地域関連団体との事前協議が必要であり、事務負担は大きいものと想定されました。
このように、検討を諦める理由だけは日々いくらでも出てくる状況でしたが、完遂まで至ったのは、実現に向けて一丸となった理事役員のみならず、テナント運営に関する知見を持つ居住者、10年を経過しなお協力頂いた売主(三井レジデンシャル)・施工主(清水建設)、組合を支える管理士(川島氏)・顧問弁護士(桃尾氏)。そして何度も検討中断の危機から軌道修正を図り、実現への歩みを支えた管理会社(三井レジデンシャルサービス・吉田氏)、多くの関係者の協力があってのことです。
この良好かつ緊密な関係こそが今回の取り組み実現の原動力であり、最大の工夫だと考えております。
居住者の声
(アンケート・ご意見書・総会の意見等より抜粋)
全体を通して
新築から住んでてボロくなるマンションを見て買い替えを考えていたけど、最近は様々な取り組みで新築時のようなワクワク感が蘇ってきた。今後も継続して取り組んで欲しい。
実施内容1:コンビニ・キッズスクエア一体再整備計画
コンビニの品揃えに不満を持っていたので、広くなることで良くなるのが楽しみ。
近所の友達もコンビニを使いたいと言っていたので、一刻も早く実現してほしい。
託児所撤退後はキッズルームとして開放されていたが、ほとんど使われておらず気になっていたので、跡地の活用は歓迎できる。
キッズスクエアの遊具は古く不衛生で、使い勝手が悪かった。リニューアルは助かる。
実施内容2:駐輪場エリアの有効活用
在宅時間が増えて部屋を広く使いたいと思っていたので、トランクルームはとても良い活用だと思う。
ロードバイクは駐輪場に保管できなかったので活用したい。
トランクルームの区画が足りない。2段式駐輪ラックの空きはまだあるので、今後も増設して欲しい。
実施内容3:タワーパーキング1本外部貸し
近隣の新築マンションでは駐車場が不足していると聞いており、役に立つのではないかと思う。
今のタワーパーキングでは大型車が止められないので、グレードアップに使うなら歓迎したい。
実施内容4:キッチンカー・移動式販売の誘致
いろんなお店が来てくれて毎日が楽しみ。
コロナ禍で外食が難しいので、お店が来てくれるとホッとする。
本件を実施するのに掛かった費用(掛かる費用)
実施内容1:コンビニ・キッズスクエア一体再整備(約3,760万円)
→ 整備費用に対する投資回収期間:約2年間
※整備費用/創出額(施設運営費削減額+賃料収入)
実施内容2:駐輪場エリア活用(約840万円)
→ 工事費用に対する投資回収期間:約3年間
※工事費用/収入増(トランクルーム+平面駐輪場)
本件を実施することで削減することが出来た費用
(出来る費用)
居住者専用コンビニの施設運営費(約1,080万円/年)
2段式駐輪ラック一部削減に伴う修繕費用の削減(約1,060万円)
【MVA】THE TOYOSU TOWER及び
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