• マンション・バリューアップ・
    アワード2021
佳作
  1. 防災部門
  • 水害対策
松澤 寛朗 様
  • 株式会社東急コミュニティー
  • マンション事業本部第一事業部ソリューション営業部
  • 株式会社東急コミュニティー
  • マンション事業本部第一事業部
  • ソリューション営業部
  • 所在:東京都 規模:約1,000戸(他棟型) 築年数:築11年
  • 2019年10月12日台風19号の上陸により、多摩川周辺地域で浸水や停電などの甚大な被害がありました。当日は管理会社及び理事会役員にて止水板や土のうの設置、低層階住戸に対して上層階のパーティルームなどを開放、これらに伴う通知等の対応をしました。当マンションは多摩川及び中小河川に挟まれた立地にあり、幸いにも大きな被害はありませんでしたが、内水氾濫による浸水が当マンション敷地のすぐ目の前まで迫り、中小河川は天端付近まで増水し、雨があと数時間降り続いていたなら、当マンションも浸水被害にあっていた状況でした。
  • 竣工当初から設置されている止水板は高さ50cmしかないことや、ハンドル起上式止水板という1箇所設置するだけで相当な労力を要すること、止水板が設置されている出入口以外にも浸水が予想される箇所もあること、様々な不安要素を抱えていることから、水害対策設備を見直すため、水害対策に関するコンサルタント会社に調査及び対策提案を依頼することとしました。
  • 水害への防災力を向上することで、台風シーズンが到来しても住民の安全・安心な暮らしを継続できるようにすることを目的としました。また、浸水想定区域に建設されているマンションでありながら、根拠に基づいた対策を構築することができれば、マンションの資産価値向上につながると考えました。
  • 地域特性に基づく対策
  • ①地域の特性
  • まず初めにハザードマップからこの地域の想定浸水深を確認しました。背景でも記載したように多摩川と中小河川に挟まれた立地であり、多摩川溢水で最大10m~20m、中小河川溢水及び内水氾濫で最大3mの浸水が起きる想定でした。また、台風19号当時のある別のマンションでは、下水の排除方式が合流式(生活排水と雨水を一つの下水道管で流す方式)であり、内水氾濫の際に雨水及び汚水の逆流による浸水が起きていたため、当マンション地域の排除方式を調べたところ、分流式(生活排水と雨水を別々の下水道管で流す方式)であることがわかりました。
  • ②浸水ラインの設定
  • 多摩川の最大浸水10m~20mへの対策は現実的には不可能であり、また、行政による堤防工事も着手される予定でした。台風19号当時、内水氾濫による浸水はマンション東側の交差点付近から迫ってきており、中小河川もあと少しの増水で氾濫という状況でした。また、敷地外構のレベル調査によるとマンション東側の地盤が最も低いことがわかり、当該地点を0mとした場合の最大浸水3mまでの対策を講じることとしました。
  • ③対策内容の検討
  • 竣工当初の止水板は50cmと地盤レベルを含めて3mに達しない出入口の止水板は全て入れ替えの対象とし、もともと止水板が設置されていない出入口にも新たに設置することとしました。製品は既存のハンドル起上式止水板より簡単に設置できる「脱着式止水板」や、開口部の広い出入口にはコスト低減から「止水シート(平時は床に収納されて緊急時に組み立てる)」としました。マンション東側には駐車場出口があり、前もって止水板を設置すると車両通行に支障をきたす恐れがあることから、水が来たら自動的に浮上する「浮力起伏式止水板」を選定しました。また、外構の分電盤や空調室外機は鉄骨架台を組んで移設することとしました。
  • ④施工会社の公募
  • 一定の条件を設けた上で新聞公募を行ったところ、計6社から応募がありました。そのなかから、金額だけでなく実績や信頼性などを考慮し、1社選定しました。
  • ⑤工事開始から完了まで
  • 仮設事務所や資材置き場の設置、各止水板の撤去・入れ替え、撤収まで約2ヵ月間の工事となりました。
  • ⑥運用資料の作成
  • ハード面である水害対策工事が完了したあと、理事会役員の参集方法や各止水板を設置・撤去するタイミングなどのソフト面となる運用資料を作成しました。
  • 安否確認ステッカーの
  • 配布について
  • あくまで非常用の設備なので実際に浸水を防ぐような場面になって初めて具体的な成果と言えるのかもしれませんが、毎年必ずくる台風シーズンを迎えても、台風19号当時のような不安や混乱を最小限に抑えられる環境を作り上げられたことが何よりの成果だと考えます。
  • ■ 苦労した点・工夫した点
  • 色々な設計会社にあたりましたが、水害対策について豊富な経験があるところがなく、何が本当で正解なのかわからない点も多く、どこから浸水が始まるのか、どこまでの高さを想定するのか、対策の根拠となる部分の検討が最も大変でした。
  • 居住者の声
  • 2019年の台風19号の近隣の甚大な被害を目の当たりにして、当マンションの水害対策が脆弱であることを知りました。その危機意識が薄れないうちに、効果的な対策工事を実施してもらい感謝しています。綿密な浸水シュミレーションを公開し、住宅関連部分への3メートルの浸水まで防ぐ対策工事を行ったことは、我々住民の安心につながりました。その結果、住民の安全な暮らしが守られ、マンションの資産価値も維持・向上されていると感じています。
  • 本件を実施するのに掛かった費用(掛かる費用)
  • 約130,000,000円(税抜き)
  • 本件を実施することで削減することが出来た費用
    (出来る費用)
  • 建物内に約3.0mの浸水が発生した場合の想定被害額(コンサルタント試算による)
  • 各棟自家用電気室、非常発電機室、消火設備室、受水槽室、1階廻り内装、機械式駐車場 等
  • 合計:1,800,000,000円
  • 脱着式止水板
  • 止水ドア
  • 浮力起伏式止水板
  • みずどめくんシート